名古屋高等裁判所 昭和26年(う)426号 判決
一件記録に徴するに被告人が営利の目的で一、昭和二十四年九月二日頃鈴鹿市高岡町高岡農業協同組合前広場で林敏夫に対し三重県開拓協会開拓基地農場所有の硫酸アンモニア(四十五瓩入)二十五叺及び過燐酸石灰(十六貫入可溶性燐酸十六%のもの)二十五叺を所定の統制額は硫酸アンモニア一叺金五百五十四円六十七銭、過燐酸石灰一叺金三百六円三十七銭であるのに之を超えた硫酸アンモニア一叺当り金三千七百円替、過燐酸石灰一叺当り金七百円替の合計代金十一万円(超過額計金八万八千四百七十四円)で、二、同月八日頃前同所で同人に対し前同様過燐酸石灰二十五叺を右統制額を超えて一叺当り金七百円替の合計代金一万七千五百円(超過額計金九千八百四十円七十五銭)で各販売した旨の起訴状公訴事実における各事実が差し戻し後の原審第一回公判期日において所説のように被告人は営利の目的で昭和二十四年八月末頃鈴鹿市石薬師町所在三重開拓基地農場で林敏夫に対し右農場所有の前記硫酸アンモニア二十五叺及び過燐酸石灰五十叺を前記各統制額を前同様各超過した代金合計金十二万七千五百円(超過額金九万八千三百十四円七十五銭)で販売した旨その日時場所を改め又回数も一回にとりまとめてその訴因変更の手続がなされ右変更せられた訴因に基いて原審の手続がなされたことが明らかである。而して右訴因の変更は右説示に徴し右起訴状公訴事実における一、二の双方の事実につき行われたことが明らかで所説のように右事実の中一又は二の何れか一方について行われたのに過ぎないものとは認めることができなく且又右起訴状事実一、二における記載に徴し原審検察官が右一、二の事実を併合罪の関係にあるものとして起訴したものと解せられるけれども一通の起訴状に数罪として示されているか一罪として示されているかは単に検察官の法的見解が示されているのに過ぎなく、裁判所は検察官の該見解に拘束されることなく、検察官の見解によれば数罪とせられる事実を客観的に単一と認める限り、検察官の右見解に基く起訴状における記載を所謂二重の起訴と目すべきものではなく単にその体裁を誤つたものと見て、右起訴事実につき一箇の判断を示せば足るものと解すべく従つて所説のように右一又は二の何れか一方又は双方の起訴事実につき訴因の撤回、追加又は公訴の取消の問題は生じないものといわなければならない。尚右の場合訴因変更の必要性を認めない説のあることも留意せらるべきである。よつて原判決には所説のような刑事訴訟法第三百十二条第三百三十九条の各規定に違反した廉はないので論旨は之を採用しない。